column コラム

給水ポンプが1台止まっても水は出る。それでも「すぐに直すべき」理由

カテゴリー

  • 給排水設備工事

はじめに:「水が出ている=問題ない」ではない

設備点検の報告書に「給水ポンプ1台 モーター拘束により停止」と書かれていたとします。

各住戸の蛇口からは普段どおり水が出ていて、住民からの苦情もありません。そうなると、「次回の定例理事会で見積もりを見てから決めよう」と判断したくなるものです。

しかし、この状態は正常ではありません。給水設備が、本来備えている「故障しても止まらない仕組み」をすでに使い切っている状態です。

本コラムでは、複数台のポンプのうち1台が停止したとき、建物の中で何が起きているのか、そして管理組合がどのように動くべきかを解説します。

1. マンションの給水ポンプが複数台ある理由

マンションの給水方式は、主に次の2つです。

増圧直結給水方式は、水道本管の圧力に、増圧ポンプで圧力を上乗せして各住戸へ送る方式です。受水槽を持たないため、衛生面や設置スペースの面で有利とされ、近年の物件で多く採用されています。

加圧給水方式(受水槽方式)は、いったん受水槽に水を貯め、そこから加圧ポンプで各住戸へ送る方式です。停電時や断水時にも受水槽に一定の水が残るという特徴があります。

どちらの方式でも、ポンプユニットには2台または3台のポンプが組み込まれているのが一般的です。これには2つの役割があります。

一つは、使用量の変化に対応することです。朝の身支度の時間帯や夕食後の入浴時間帯など、多くの住戸が同時に水を使うときには、複数台を同時に運転して水量と水圧を確保します。

もう一つは、故障への備えと寿命の平準化です。

使用量が少ない時間帯は、ポンプを順番に交代で運転させることで、特定のポンプだけが摩耗することを防いでいます。同時に、1台が故障しても他のポンプで給水を続けられる余裕を持たせています。

つまり、複数台の構成は「予備を置いているだけ」ではなく、ピーク時の給水能力と故障時の安全性の両方を、全台がそろっている前提で設計しているのです。

2. 1台停止のまま運転を続けると何が起きるか

余力がゼロになる

最初に理解すべきなのは、1台が止まった時点で、故障に対する余裕がすでに失われているという点です。

残るポンプのどれかに不具合が出れば、その瞬間に給水能力が不足します。

過熱による保護装置の作動や、圧力センサーの一時的な異常といった軽微なトラブルでも、給水が止まるきっかけになりえます。

残ったポンプの劣化が早まる

停止したポンプの分まで、残りのポンプが運転を担うことになります。運転時間が延び、起動と停止の回数も増えます。

ここで見落とされがちなのが、残っているポンプも同じ時期に設置され、同じ年数を使われてきたという事実です。

軸受やメカニカルシール、インバーターなどの部品には、すでに相応の劣化が進んでいます。

負担が増えれば故障の時期は早まり、1台目の故障を放置している間に2台目が止まる、という事態は十分に起こりえます。

ピーク時に上の階から水圧が下がる

使用量が多い時間帯に、残りのポンプの能力を超える水が必要になると、水圧を維持できなくなります。

影響は高い階ほど出やすく、シャワーの勢いが弱くなる、ガス給湯器が水圧不足で点火しにくくなる、といった症状として現れます。

住民から「最近朝だけ水の出が悪い」という声が出始めたら、この状態を疑う必要があります。

電気的な処置が不十分だとユニット全体が止まる

故障したポンプを、制御盤の設定や電源の面で運転対象から正しく外していない場合、制御装置が故障機を起動しようとしたときに異常な電流が流れることがあります。

その結果、ブレーカーが落ちたり制御装置が停止したりして、正常なポンプまで運転できなくなるおそれがあります。

逆止弁の不具合で水圧が上がらない

各ポンプの吐出側には、水の逆流を防ぐ逆止弁が付いています。

停止中のポンプの逆止弁に異物が挟まったり劣化したりしていると、運転中のポンプが送り出した水の一部が、停止中のポンプを通って吸込側へ戻ってしまいます。

ポンプは運転しているのに末端の水圧が上がらず、電力だけを余分に消費する状態になります。

3. 設備面で最初に行うべき応急措置

停止が判明したら、まず点検業者や保守会社に次の措置を依頼します。

故障したポンプの電源を制御盤で確実に遮断し、制御の設定上も運転対象から外します。あわせて、故障機の吸込側と吐出側のバルブを閉じ、逆流や水漏れを防ぎます。

そのうえで、残りのポンプの運転状態、制御盤の異常履歴、逆止弁の状態を確認してもらい、同様の兆候が出ていないかを点検報告としてまとめてもらいます。

修理の方法は、モーターの交換、ポンプ部分の分解整備、ユニット全体の更新などが考えられます。

ポンプユニットの更新時期は一般に15年前後が目安とされますが、メーカーや使用状況によって異なります。

設置から年数が経っている場合は、1台だけ修理しても残りが順番に故障していく可能性があるため、ユニット全体の更新と比較した見積もりを取ることをおすすめします。

4. 管理組合としての意思決定:定例理事会を待たない

技術的な対応と同じくらい重要なのが、修理を決める手続きを速やかに進めることです。

国土交通省のマンション標準管理規約では、災害などの緊急時に、理事長が総会や理事会の決議を経ずに共用部分の必要な保存行為を行えるとする規定や、応急的な修繕工事を理事会の決議で実施できるとする規定が設けられています。

また、区分所有法上も、共用部分を維持するための保存行為は、集会の決議を経ずに行えるとされています。給水設備の機能を維持するための緊急修理は、こうした規定の対象となる余地があります。

ただし、実際にどこまでが理事長や理事会の判断で進められるかは、各マンションの管理規約の定め方によって異なります。自分たちの規約を確認したうえで、次のような手段で意思決定を早めることを検討してください。

臨時理事会の招集、または規約で認められていれば書面やメールによる決議を行う。理事長が緊急対応として発注した場合は、その経緯と理由を記録し、次回の理事会や総会で報告する。見積もりの比較や判断の根拠となった点検報告書を保管し、後から組合員に説明できるようにしておく。

判断を先送りしている間に全館の給水が止まれば、住民の生活への影響だけでなく、臨時の給水対応や緊急工事で費用がかえって増えることもあります。

「決めるための手続き」を速く回すことも、管理組合の重要な役割です。

5. 住民への周知

修理が終わるまでの間は、掲示板や各戸配布で状況を知らせておきます。

内容としては、給水ポンプの一部が停止しており修理を手配していること、朝夕など使用が集中する時間帯に水の出が弱くなる可能性があること、念のため飲料水を少し備えておくと安心であること、水の出方に異常を感じたら管理会社へ連絡してほしいこと、などが考えられます。

事前に知らせておくことで、住民の不安を抑えられるだけでなく、異常の早期発見にもつながります。

6. 平時からできる予防保全

ポンプの故障を完全に防ぐことはできませんが、慌てずに済む体制は平時に整えられます。

まず、点検報告書の中で、異音、振動、運転電流の変化、起動回数の増加といった記載に注意することです。故障の前兆が記録されていることは少なくありません。

次に、長期修繕計画にポンプユニットの更新時期と費用が適切に盛り込まれているかを確認しておくことです。

さらに、保守会社との契約内容として、故障時にどのくらいの時間で駆け付けてもらえるか、夜間や休日の対応はどうなっているかを把握しておくと、いざというときの判断が早くなります。

おわりに

給水ポンプは、エレベーターと並んで、止まった瞬間に住民の生活に直接影響が出る設備です。

1台が止まっても水が出ているのは、設備が設計どおりに踏みとどまっているからです。余裕はすでに残っていません。

点検で1台の停止が報告されたら、それを「次の議題」ではなく「今週中に対応を決める案件」として扱うこと。その判断の速さが、建物全体の給水を守ることにつながります。

背景画像

マンション管理組合の運営を多角的にサポートします。
他社の関与がある場合でも、セカンドオピニオンや外部管理者方式に対する監査支援が可能です。
従来通り、大規模修繕や給排水設備工事のコンサルティングにも対応しています。

受付時間平日10:00~16:00

0800-800-0336